投稿日:2018/12/25(Tue) 20:56 No.95

「カジワラ君、クレンジングパックを。」

キーボードを打つ手を止めずに一言
「お好きに取ってください。」

「随分と冷たいじゃない」

「忙しんですよ」

カジワラの態度は仕方ない。許してほしい。
あなたがそうさせているのだから。

やはりといった所か
意に返さず、テーブルの引き出しを漁る
「.....えーとえーと。あったあった。」

取り出したのは、一枚の紙。
見た目は和紙の様だが、厚みが薄い。
それに水を含んだ風船のように、汗をかき、プルンプルンだ。
初めて見る物体X。
それで何を....

「目をつむってください。フフフ、そう怖がらないでください。痛いことするわけじゃないんで」

怯えずにいられないだろう。あなたの一挙一動に。手にプルンプルンした、わけわからん物を持ってたら尚更。

ランさんの顔に片手を伸ばした。...のだろう。見えない。

「きれいな二重ですねぇ。眉毛も一切手をかけてる感じしないのに」

「このアイシャドウ、ルナティックシリーズじゃないですか?」

「...う、うん」

「フフ、人気ですよね。ダークブラウンとオレンジの組み合わせ素敵ですよ。」

ランさんを触る動きもそうだが、口調もなんだろう、艶めかしいというのか。

「本当にきめ細かい肌ですよね。この吸いつき、作り立てのマシュマロの様。この滑り、人の肌を触るのがこんなにも心地良いなんて..」

「.....」

「羨ましいわ。....すいません、ゴム臭かったですよね。...それではパックを貼り付けますね、」

プルンプルンを両手に持ち、ランさんへ。

「おでこから.....冷たいですよ、よっ、はい。目は開けないでくださいね。瞼に貼っていきますからね。あっ、もう少し前傾できますか?そうそう、もう少し、下げて...うん、前に来て...首をもうちょい伸ばして...はいありがとうございます。」

心臓が再びビートを高めていく。


(おいおいおいおいおいおい)

怯えているのがはっきりわかった。
目をギュッとつぶり、耐えている。
奥歯を噛みしめているのもわかる。

ほどいたロングの茶髪の髪がまた綺麗だ。
もちろん顔も。

なんでわかるかって?
女医の指示のお陰で甲羅から亀が頭を出したからさ。

体育館以来、遂にランさんが見れた!!
こんな場所で最悪のシチュエーションで一番見られたくない時の顔だと思うが
やはり嬉しい
僕の中でランさんが如何に大きいかどれだけの存在か改めて確認できた。
それになんの意味があるのかと問われれば困るが、想像のみだった耐え忍んでいる顔を目にして感動している。
嬉しい。
親しい仲ではないし、再会してないし、あれから幾ばくも経ってないけど、けど旧友と久方の再会を味わった。


おでこから始まり、パックは瞼を覆い、そして鼻へ。
こんな鼻筋見たことあります?横から見ると高さが一段とわかりますよ。

「ちょっと息苦しいですが、我慢してくださいね。」

市販のパックと違って鼻部分の穴がない。水気もすごいし大丈夫なのだろうか?

鼻が隠され、喰いしばっていた口が開く。

はぁーーーはぁーーーー
呼吸が深くなる。

「口に貼りますので、タコさんの口をしてください。わかりますか?唇を尖らせてください。そうそう、いいですよ。もっといけます?」

(こ、こんなの見ていいのか!?)

今更何をと思うだろう。
憧れの乙女が唇をタコにしている。まるで恋人にキスをせがむかのように。
いや、ランさんには悪いがもっと間抜けだ、正直。ひょっとこのよう。
だからこその罪悪感。今更ながらの。
女医の重ねる指示によって、唇が鼻についている。

「フフフフ、かわいいですねぇ。いいですよぉ」

....可愛いといえば可愛いか...

すぅーーーすぅーーー

呼吸音も変化する 尖らせた唇の先端から息が出たり入ったりシュノーケリング。

「じゃぁ全部貼っちゃいますね.....よっ」

ランさんはのっぺらぼうになってしまった。
唇部分の尖りだけわかる。

「少し上から押さえますね」

女医は優しくのっぺらぼうの凹凸をなぞっていく。

その間
チューーチューーと水気を含んだ呼吸音が部屋をこだまする。

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