投稿日:2018/12/25(Tue) 17:49 No.93

     【レイ君が死んだ日 続々々】

笑顔。
人にのみ許された表情。特権、と言えるかも知れない。
なぜ笑う。どうして顔で感情を表す。

目の前の笑顔を見て、ふと考える。

蘭さんの秘密を見入る、顔。

眼光は鋭さを増し、牙を隠す事無く剥きだしている。
これが笑顔。
本当の。
人間の本性。特権を行使した女医。

僕はその顔、破顔が恐ろしくて眩暈を感じた。
ここまで醜いのか。笑顔とは。大人とは。


「これこれ!!お待たせしました!!」

軽やかに隣に報告。スキップに近い足取りだった。

「もう、靴の中になんて入れたらダメじゃないですかぁ。バッチィじゃないのよ、もぉ。」

明らかに声がワントーン上がっている。友達とはしゃいでいる女学生のよう。

「さぁ、持って。左手で、そう。ちゃんと証拠の写真を撮っておかないと。カメラ、カメラ。」

(撮影って.....)

消えた興奮が、熱を感じる。
ビビッていたはずなのに、これが欲。喉元過ぎれば、興奮する。
情けなさと頼もしさを両方感じ取れた。

「い、いや....写真は...こんなの..いやだ....」

至極当たり前
今までは一時の恥で.....は済まないが、時間と共に風化する。
しかし写真で残されたら一生消え去らない。
末代所の話ではない。

「クサナギさん、このデータは必要ないのでは?撮影しなくても、検疫に回せば」

「ダメよ。必 要 な の」

カジワラじゃあ抑えきれない。圧が強すぎる。

「さぁ、取りますよ。....あぁ駄目ですよ、隠しちゃ。両手をちゃんと上げて....ダメダメ、それじゃ証明にならない」

聞き耳を立てなくても随分と声が近い。

んっ!!!

戸が開いている
開けっ放し.....

脳内会議はもう必要なかった
種は蒔かれ芽吹いていた

強行採決

静かに
足音を殺し、開放部に近づく。
心を殺し、真実に近づく。

一歩
もう一歩
さらに一歩

抜き足
差し足

忍び.....足っ

ふぅーーふぅーー

(落ち着け!)
たった6歩弱。息が切れる。足の震えが止まらない。
マラソン大会でもこんなに疲弊しなかった。

思えば今日はストレスが酷い。
蓄積ゲージは壊れ、溢れ、床上浸水。
その状態で僕は、覗きをしようとしている。人生初の。相手は蘭さん。
云わば津波。
自分のすべてを飲み込み、破壊する怪物。未曾有の大災害。

おとなしく避難しとけばいいものを

ふぅーーふぅーーー

徐々に顔を覗ける。

カメラを構え、支持を出す女医。
後ろで苦虫を潰しながら、チラチラ気にしているカジワラ。

ふぅーーふぅーーー

(二人共、こっちに気付いてくれるなよ...!!)

体を前に
大胆に

頭は真っ白だった
行動しているのに思考がなくなっていた
心臓の音だけがひどくうるさい

バレたらまずい
これ以上はだめだ

ブレーキがかかる

避難警報!避難警報!

まだ見えない

前進

戸から半身をさらけ出す

頭は真っ白だった


これぞ 光景


レイは笑顔だった

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